【模刻-19】高知県 雪蹊寺 木造毘沙門天立像

中村志野 制作年 2012年

 高知市長浜の雪蹊寺に安置されている毘沙門天立像は、法印時代の湛慶によって制作されたことが知られています。

湛慶は、平安時代後期から鎌倉時代前期にかけて活躍した仏師運慶の長子で、奈良仏師の正当な後継者であり、鎌倉彫刻史を理解するうえで非常に重要な人物と言えます。しかし、その確実な作例が少ないため作風展開は推測の域を出ません。数少ない現存作例であるとともに貴重な基準作である雪蹊寺毘沙門天立像は、巧みな彫技や、誇張のない人体把握を評価されてきたものの、父である運慶の作例に比べ、動勢の把握が弱いことが以前から指摘されていました。

 そこで、雪蹊寺毘沙門天立像の詳細な調査・模刻を通して、父である運慶による願成就院毘沙門天立像と、ほぼ同世代である肥後定慶による東京藝術大学毘沙門天立像との比較を行いました。父運慶は、無駄が多いにも関わらず大きな角材を大胆に使用し、あくまで一木造的な発想で制作しているのに対し、長男湛慶はより少ない量の材木を用い、作業を行いやすくするための割脚に合わせて、体幹部の矧ぎ目を調整していることなどが新たに分かりました。しかしその構造の違いは、造像を効率的にするだけでなく、像の動勢を弱める作用も持ち合わせており、それが運慶・肥後定慶・湛慶の世代間の違いを生んでいるということを、実制作者の観点から浮き彫りにしました。鎌倉時代の仏師たちの木取りの変遷を通じて、作品の形状に与えた影響を検証した中村志野の研究は、材料技法から彫刻史を研究する当研究室ならではの面目躍如たる成果といえます。

粗彫り

​玉眼の嵌入​

​木地の完成​

​獅噛の造形

​内刳り​

​古色​

​模刻の完成​

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