【模刻-21】東大寺中性院 弥勒菩薩立像

小島久典 制作年 2014年

 原本像は東大寺中性院に祀られ、像内納入品から建久年間(鎌倉時代初期)に造られたことが分かっている御像です。キリッとつり上がった目つき、波打つような衣文など、いわゆる「宋風」と呼ばれる作風ですが、渦巻き形のおへそやなぜか別材で造られた腹部など、不思議な点が数多くみられます。なかでも、別材で作った脚部をわざわざ像底から挿し込むことは、昭和36年の報告以降知られていましたが、なぜそのような風変わりな構造を持つのかははっきりしませんでした。

 実際に模刻制作を行なってみると、それらのほとんどが造像途中に像の動きを変えたことによるものだということが分かりました。もともとほぼ真っ直ぐに立っていた像を、右脚・右腕を大きく踏み出し、しなやかに前方へ歩みだす姿に改変するために、作者自身が改変していたのです。それは、解脱房貞慶を中心に弥勒信仰が鼓吹され、生身の仏が待ち望まれた当時の南都でこそ生まれた工夫であると言えます。

 また、本像は善派の出自を示唆する像でもあります。善派とは、慶派が京都に拠点を移した後も南都で造像を続けた一派であり、中性院像の作風はその善派に通じる部分があると指摘されてきました。この研究で、中性院像の姿が徹底的な試行錯誤の結果生まれたものであり、なおかつその作風がほぼそのまま善派にも見られることから、中性院像は善派のプロトタイプであり、慶派と善派を繋ぐ分岐点である可能性が高まりました。

​用材​

​粗彫り

​中彫り

​木取り

​制作の様子

​原本像に合わせ足を別材にする

​別材の下腿部材

​下腿部材の組付け​

​原本像に合わせ右膝を別材にする

​すべてのパーツを並べた状態

​原本像に合わせ腹部を別材にする

​頭部の前傾前

​頭部の前傾後

​木地の完成​

​箔押し後

​箔押し後の下腿部材

頭頂部からの玉眼調整

​復元した天衣

​古色付け

80%サイズの構造模型

​模刻像の完成

​構造推定図

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