円成寺十一面観音菩薩像の修復
はじめに
円成寺は春日大社、東大寺より15キロほど東へ進んだ柳生街道の途中に所在します。かつては、十数の塔頭を有した比較的大きな寺院で東大寺や東寺に務めた高僧たちが修行を行った場としても知られています。本堂には、平安時代後期に造られた定朝様式の阿弥陀如来坐像が本尊として祀られており、本堂正面の一段下がった空間に池が広がる浄土式庭園を有します。また、境内には春日大社のミニチュアとして造られた国宝春日堂と共に、拝殿、多宝塔があります。近年、新築された収蔵庫相應殿には鎌倉時代に活躍した仏師運慶の最初期の作品である大日如来坐像と、当研究室で2015年に修復を行った四天王像が安置されています。
主な修復担当者
藤曲隆哉(非常勤講師)
安井晴江(2019年度修士課程1年)
陳 鉦翰(2019年度修士課程1年)
胥 文君(2019年度技術職員)

円成寺の境内
2019年度の修復実習では、平安時代後期に造られた木造十一面観音立像の修復を行いました。像本体は、足が外れ各部材は緩んでおり、自立できない状態のため紐で括られ保管されていました。台座と光背は江戸時代に補作されたもので、虫やネズミによる損傷が大きく、部材を持ち上げるとバラバラと崩れてしまう状態でした。

損傷の進んだ台座
今回の修復では、まずⅩ線撮影解析による部材の精査・調査を行った後、本体の解体を行いました。本像の胎内から銘文が発見されたことにより、正保年間中(1644~1648)に修復を行ったことが分かります。また、一見すると分かりにくいですが、解体をすると左肩から左手先までが後補のものであることが今回の修復で分かりました。さらに左腰から裾にかけては、火災によって焦げたような跡もあります。そのことから正保の修理では左側面を補作したうえ、像全体の表面に漆塗りと金箔が施されたことが想像できます。

解体した状態

四天王像と運慶作大日如来坐像

十一面観音菩薩立像

透過X線写真

本像の足先は、脱着式とも言うべき足先の上部にさらにほぞ穴を開け、本体を差し込む面白い構造をしています。修復も総仕上げという段階で、現在流行している感染症の影響により作業は中断していますが、こうした本像の特徴も紹介しながら修復についてご紹介します。

足まわりの構造

像内の墨書
本研究には、公益財団法人仏教伝道協会から助成金を頂いております。この場をお借りしてお礼申し上げます。
