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個人蔵釈迦如来坐像の修復

​はじめに

 今回、修復依頼を受けたのは個人所有の御像です。釈迦像は経典に基づき、誕生像や説法像、涅槃像など、さまざまな姿で制作されていますが、日本では衆生に教えを説いている姿のものが一般的です。今回の修復対象も、説法印の釈迦如来坐像でした。浅い衣文や落ち着いた彫り口などの特徴から、平安後期の作とみられる美しい御像です。

主な修復担当者

鈴木 篤(非常勤講師)

益田芳樹(非常勤講師)

小島久典(助教)

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​修復前写真

 その構造は、耳後ろを通る線で割矧いだ「割矧造」で、首周りに鑿を打ち込むことで頭部をいったん取り外す「割首」が施されています。肩から先の両腕や脚部は別のブロックで造られており、右肘から先と両手先も別材で彫り出されています。右肩は、肘から先を別材で造って衲衣(のうえ)という衣の中に挿し込む複雑な構造になっています。形に目を向けると、螺髪(らほつ)を粒状に彫り出し、耳たぶには丸く穴を貫通させています(王子時代のピアスのなごり)。頭部には肉髻珠、額には白毫をあらわします。

 左手は膝の上で手のひらを上に向ける与願印、右手は手のひらを前にして施無畏印を結んでいます。左脚を上にする降魔坐で坐り、衲衣は右肩に少しだけ懸ける偏袒右肩という着方で身に着けています。

修復前には御像をよく観察して、どこを直すべきか、直さないべきかをしっかり吟味します。今回は、右腕の造形に違和感が感じられたため、他のスタッフを交えて観察した結果、後の修理で補われたもの(=後補)であることが分かりました。その他にも、耳たぶや指先の一部が後補でした。

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​右腕の構造

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​後補の指先​

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​後補の耳朶(耳たぶ)

 まずはじめにガス燻蒸を行い、文化財害虫を退治しました(施工:イカリ消毒株式会社)。次にクリーニングによって汚れを落としつつ、漆層が剥がれているところには剥落止めを施します。

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ガス燻蒸のためのテント

 どうしても形に違和感のある後補箇所は除去し新たに作り直しますが、そうでない後補部分はそのまま活かします。

作り直した部分には漆下地を施し、金箔を押し、まわりと馴染むように古色を施します。(現在は漆下地の段階です)。

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新たに造った裳先

新たに造った右腕や指先

新たに造った耳朶

 今回の修復では、後の時代の塗膜が分厚く、後補箇所を特定するのが難しいところもありました。しかしながら、違和感を取り去り、長い年月を経た自然な姿に戻すことができたと感じています。今年は研究報告発表展を開催することができずとても残念ですが、完成時には皆様にお披露目できることを願っています。

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