勝専寺千手観音菩薩像の修復
はじめに
東京都足立区千住にある三宮神山大鷲院勝専寺は、「千住」という地名の由来のひとつといわれる木造伝千手観音菩薩像が安置されるお寺です。その昔、新井政次という人物が荒川(現在の隅田川)に網を投じたところ、千手観音像が網にかかり、お祀りされたのが始まりとされています。また「おえんまさま」として閻魔大王信仰でも知られ、毎年御開帳日の1・7月の15・16日のご縁日では、境内から表の通りまで屋台を連ねるほど賑わいます。江戸時代には大鷲神社・鷲神社・長國寺とならび盛大な「酉の市」が開かれる寺でもありました。徳川家ゆかりのお寺でもあり、かつて境内には日光東照宮参詣に際して将軍の御旅所もありました。この度、ご縁あって当研究室で修復させていただくこととなりました。
主な修復担当者
鈴木 篤(非常勤講師)
益田芳樹(非常勤講師)
小島久典(助教)
現状は、脇手(千手の手)があるべき場所からずれて接着されていたほか、本体足元の虫食いが進んでいたため、修復者としては、このままだと御仏像の将来が不安な状態でした。古い御像のため、これまでに何度も修理を受けていますが、様々な由来や歴史に敬意をこめて、いまのお姿を可能な限りとどめつつ、「千住」の千手観音さまの尊容を取り戻そうと試みました。


クリーニング
修復前写真
解体状態


虫蝕が進んだ像底
その作業の中で、台座の彫刻の繊細さに一同が驚かされる一幕もありました。光背の透かし彫りもたいへん美しく、江戸時代の彫金技術の高さがうかがえる、貴重な修復経験となりました。しかし、台座も長い年月の中で損傷が進んでおり、欠けている部分の新補・下框の新補などを行い、今後しっかりと御像を支える工夫を施しました。



シャープな彫り口の台座

新補部分の漆塗り作業
現在は、新たにつくった框や新補箇所の漆塗り作業を中心にすすめています。また御像本体も、もう少しお時間をいただき最後の色合わせをしていく予定です。

繊細な透かし彫りの光背